大福さんの命日
2022年8月12日 午前8時30分
良い波。
セット胸〜肩。トロいブレイクでロングボード日和。
私と友子、サーフィン仲間は波乗りを楽しんでいた。
そんな中、グーフィーの波を誰よりも大福さんは気持ち良さそうに乗っていた。
大福さんは私と友子の住む同じマンションの住人で。宮崎に移住して、右も左も分からない私達に優しく声をかけてくれた。
このサーフポイントに初めて連れてきてくれたのも大福さんだった。
それから毎日のように約束したわけでもないのに、海で会って。
「今日はいい波やな」
満面の笑顔で話しかけてくれる。
サーフィン初心者の友子に「友ちゃんいけ!」と言って、自分がベストポジションにもかかわらず友子に波を譲ってくれる。
友子とサーフィン仲間と良い波を楽しんでいると。
「大介さん。あそこにボードが浮いてない?」
サーフィン仲間の一人が指差した。
その先を見ると。沖でサーフボードが浮いていた。ボードの主は見当たらない。
・・・
大福さんのボードだ!!
急いで、私と友子、サーフィン仲間はパドルし大福さんの板に近寄る。
浮いているサーフボードのリーシュコードを引くと、海の中から顔面蒼白で意識のない大福さんを引き上げた。
「大福さん!! 大福さん!!」
声をかけても反応がない。どれくらいの時間海の中にいたんだ?
ロングボードの上にぐったりしている大福さんを乗せて、人工呼吸、心臓マッサージを行う。
不安定で全く力が入らない。早く陸に運ばないと!救急車!
サーフィン仲間が大声を出して、近くにいるサーファー達に助けを求める。
大福さんをボードの上に乗せたまま必死にパドリングをして陸を目指す。
潮の流れに捕まって全然進まない。友子は自分の板を外して、泳いで大福さんの板を押している。
一人、また一人と大福さんの板にサーファーが集まってくる。
板を押すのを任せて、心臓マッサージを続ける。
「大福さん!頑張って!大丈夫だから!!」
「・・・」
意識はなく、呼吸も止まったまま。
早く!もっと早く!!
どれくらいの時間がかかっただろう。最終的に10人近くのサーファーが集まり、大福さんを陸に引き上げた。
救急車が到着するまで交代交替心肺蘇生を行なった。
けど、大福さんの意識が戻ることはなかった。
2023年8月12日 午前8時30分
私と友子は海を眺めている。
良い波
あの日と同じ セット胸〜肩。
大福さん聞こえてますか。
今日はいい波ですよ。
天国で波乗り楽しんでください。