一筋の涙が彼女の頬を伝う
堪えることの出来ない悲しみが彼女を襲っている。
癌を患い、抗癌剤の副作用で脱毛が発症したためやむ負えず今まで伸ばしていた自慢の黒髪を切る決断をした。
ジョリ、ジョリと無機質なバリカン音が部屋に響き肌色の頭皮が見えてくる。
バリカンを持つ彼の手は震えていた。
彼女の苦しみや辛さを自分が代わってあげられるなら、今すぐにでも代わってあげたい。
そう願う彼の目にも涙が溢れ、彼女の髪を切る手にこぼれ落ちた。
・・・・
「うちと全然違うな」
私はYouTubeを見ながら呟いた。
画面の中には、癌を患った彼女の髪の毛を切る彼氏の動画が流れている。
悲しみに包まれているが、感動的な場面。
「普通はこんな感じなのかな?」
抗癌剤の治療を始めて、約三週間。友子に脱毛の症状が現れた。以前より「毛が抜けたら坊主にする!」と彼女は宣言していた為、私と友子は意気揚々と行きつけの美容室に行くことにした。
ついでに、私も坊主にしてもらうことにした。理由は楽だから♪
美容室のマスターに「記念に坊主動画撮影していいですか?」と聞くと。
「いいですよ♪」と快諾してくれた。
「じゃあまず、一旦モヒカンとかにしてみますか?」
と、ノリノリのマスター。
「いいですね!ぜひお願いします!」
と、乗り気な友子。
「じゃあ撮影入りまーす」
と、カメラを回す私。
店内には私たち三人しかいないけど、きっと側から見たら愉快な三人組なんだろうな。
マスターがバリカンで、友子の髪の毛を剃り上げていくと。
「うおーすげー!なんかスースーする!」とテンションが上がる友子。
ものの3分でモヒカンの出来上がり。
「これでもいいかも♪」と喜ぶ友子。
いや、流石にそれは・・・
さらにバリカンで髪の毛を刈り上げて頭の左側だけ残して、漫才師の海原はるか風に仕上げる。
いいねマスター!随分と人の嫁で遊んでくれるじゃねえか♪
そして、髪の毛を全て剃り落とし。坊主の完成。
頭皮に残った髪の毛を吹き飛ばす為、ドライヤーを当てると「直に風が当たる〜」となんかスッパイ顔をする友子。
「頭スッキリ!軽い!いい感じ!」
と、ご満悦の友子。
「女性を坊主にしたのは人生初でした。ありがとうございました。」
と、なんだかマスターも一仕事終えた職人の顔をしている。
その後、二人で海まで歩き記念撮影をしました。
次回に続く。